クスリってなんだろう。考えてみる。

 病気を治療してくれるもの、ということしか浮かばない。
 クスリを使いたくない、という病気の人は多い。何故? クスリ大好き人間の僕には理解できない。自然なままが良い、と言う意見もある。だったら、自然に病気になったのだから、病気の悪化も受け入れればいい。でも、治したいという。
 クスリは毒だから、という。毒って何? 身体を害するもの? 確かにクスリは使い方によっては身体に害を及ぼす。でも、適切に使っている限り有用なものだ。身体に取り込むものはすべてが毒である、何故なら肝臓で解毒するから、と言う人がある。すると食物も毒だ。本当?
 食べ物は毒じゃない、と言うことは僕にも分かる。じゃあ、食品添加物は? 着色料が使われていても平気で食べる。食品添加物は平気で、クスリはダメ?
 必須アミノ酸というのがある。人間自身が合成できないので、食事から摂る必要のあるタンパク質だ。これは身体の不足を補うもの。クスリもそうじゃないの? 例えば抗生物質。普通は体内に入り込んだ黴菌は、人間自身の本来の仕組みで排除できる。が、排除できない黴菌に対して、抗生物質はそれを排除する力を貸してくれる。問題なのは自分自身で排除できる場合にも抗生物質を使うときのこと。
 身体の病気は治療するけど、心の病気はクスリを使いたくない、と言う人は多い。でも、心も身の内。心は脳の働きで生まれるから。脳みそがうまく機能しなくなったとき、心が乱れる。心のクスリは、脳の働きを補うもの。でも、イヤ、という。何故?
 足りない機能を補う,というのだったら、サプリメントはどう? 抵抗ない人、結構多いよね。サプリメントも立派なクスリ。でも本来は食事で補うものだよね。現代人は食生活が乱れているから、サプリを摂る。おかしくない?
 クスリはイヤだけどカウンセリングは平気、という人も多い。カウンセリングは身体に害を及ぼさないと思っているのだろうか? そんなのは誤解。カウンセリングも、脳の機能を改善する働きがあり、それはクスリと同等の作用だという報告もある。とすれば、当然、副作用もある。
 同じクスリでも漢方薬なら抵抗がない人、いるよね。副作用がないから、とか、自然にあるものを利用しているクスリだから、とか。これも誤解。漢方専門医じゃない医者が処方できるのは、いわゆるエキス剤というもの。これは副作用が少なくなるように調合されたもの。漢方専門医が処方する生薬は、時に副作用が強く出る。エキス剤だって、例えば柴胡剤には間質性肺炎を引き起こすという場合もある。一歩間違えば怖いクスリだ。
 心のクスリはクセになるから、ともいう。クセになるって、どういうこと? 止められなくなるって意味? じゃぁ、高血圧の治療薬はどう? 糖尿病の治療薬はどう? 身体の病気のクスリも、簡単には止められない。でも、どうしてクセになったって表現しないの?
 心の病気は、心が弱いから罹るんだって。ホント? 精神力が鍛えられている人、例えば一流のスポーツマンでも、心の病気にはなるよ。それはどう考える?
 ココロって、自分の意志でどうにでもなるって思っているのかなぁ。それは大きな間違い。自分の思いどおりにならないのは、カラダと一緒。自分の思いどおりに行動できる人って、いないでしょ?
 
 そんなことを、いつもの診療で考える。疑問は尽きない。