あなたは治りません

 こう、宣言する医者が増えているような気がする。
 以前に受診した患者さんで、「あなたは人格障害だから治りません。○○という薬でも服んでいなさい」と宣告されてショックを受け、それが本当かどうか確認のために受診された。
 人格障害という言葉がいけない。そもそも人格というのは成長に伴って形成されるものだから、地層のような積み重ねの上に成り立っている。これが病気だというのだから、治らないというイメージに結びつきやすい。でも、これは間違い。治ります。
 断言すると語弊があるが、改善されることがほとんどでした、経験上は。
 たとえば、既に診断基準からは一人歩きしてしまっている境界性人格障害。実務上は、他人の気を引きふりまわす言動を主体とする人格者で、たとえばリストカットを頻繁に繰り返したり、要求が通るまで大声でわめき散らしたりする、と定義づけられている印象がある。これ、間違い。
 こういう人たちは正常です。
 つまり、自分の病状を上手く医学用語に変換できずに、医者がまったく理解を示さず、しかも問題ないなどと安易にのたまうものだから不安が募り、さらに声を大にして症状を訴える。最終的には物別れになるのだが、医者はこういった人たちを境界性人格障害と診断しがち。救われないのは患者さん。
 以前にこういう例があった。ひどい腰痛を訴えて30代前半の女性が整形外科を受診した。足のしびれ具合から、レントゲンも撮らずに椎間板ヘルニアだと診断。湿布と痛み止めを処方された。しかしまったく良くならない。そのことを度々訴えるうちに、あろうことか医者がキレて、「あんたのは間違いなく椎間板ヘルニアなんだ。治らないのはその性格のせいだ」と宣告、精神科に紹介してきた。検査の経過から、一度は腰のレントゲンを撮るべきだと考え、別の整形外科医にその旨をお願いして紹介。案の定、腰痛の圧迫骨折があった。早期であれば何とかできたものを、よくよく時間が経ってしまっているのでコルセットで圧迫を弱める程度しか手だてがない。しかもよく効くと、女性ホルモンを抑える副作用のある薬剤を服用中だった。
 怖いでしょう?。医者ってそんなものです。
 受診するにはまず予習をしましょう。できればメルクマニュアルなどで世界のスタンダードな治療法を調べておくといい。その上で、今日の診断基準(医学書院)などで、疑わしい病名と、それを説明する用語を覚えておくといい。私は歓迎します。むしろ教えてもらいたいくらいです。病気の症状は千差万別だからです。
 回り道をしましたが、たいていの人格障害は、そういうわけで治ります。ご安心を。